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2005年加入 赤井ほむら 秋穂みのり 朝日奈夕子 麻生華澄 伊集院レイ 和泉恭子 和泉穂多琉 一文字茜 御田万里 神戸留美 清川望 九段下舞佳 寿美幸 早乙女優美 神条芹華 橘恵美 野咲すみれ パトリシア・マクグラス 陽ノ下光 藤崎詩織 藤沢夏海 水無月琴子 宗像尚美 八重花桜梨 渡井かずみ 2006年加入 相沢ちとせ 鏡魅羅 片桐彩子 加藤美夏 河合理佳 如月未緒 佐野倉恵壬 清水代歩 白雪真帆 館林見晴 虹野沙希 鞠川奈津江 美咲鈴音 碧川涼 2007年加入 青葉林檎 天宮小百合 石塚美樹 遠藤晶 小野寺桜子 春日つかさ 沢渡ほのか 豊田可莉奈 並木智香 難波花梨 星乃結美 舞・アレックス 牧原優紀子 松岡千恵 松田麗美 御手洗清子 南景子 山崎竜子 弥生水奈 2008年加入 新井聖美 犬塚さおり 谷由利佳 千鳥かなめ 永倉えみる 山下志津香 山本るりか 2009年加入 伊藤亜紀 キャシィ・ワイルド 潮崎久美子 嵐崎円 2010年加入 葵若葉 大倉都子 静森絵里菓 七河瑠依 姫倉千草 三浦茜 村雨純夏 湯浅比呂美 2011年加入(予定) 鮎沢美咲 一条瑛花 春日楠 春日結乃 七咲逢
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「朋与。ちょっとフザケすぎ!」 比呂美は朋与の用意したスポーツドリンクをラッパ飲みしつつ、眉をハの字に曲げて抗議した。 勝負を始めてから開く一方の点差に焦り、早々に脱いでしまったコート。 自分がへたばっている隙に、その中から勝手に携帯を取り出して、眞一郎に電話するなんて…… …………悪戯の域を超えている………… 「バ~カ。そんなんじゃないから、心配しなさんな」 僅かに不安の色を見せる自分の瞳に気づいたのだろうか? 朋与はカラカラと明るく笑って、手にしたペットボトルの中身を飲み干した。 「小遣い稼ぎよ。……ヒヒヒ」 唇を片方だけ吊り上げ、悪巧みをしていますと表情で語る朋与は、まるで時代劇の悪代官のようだった。 お主もワルよのう、と思わず言ってやりたくなる。 「さて! 次、行ってみようか!」 パンと弾けるように立ち上がると、朋与は脇に置いていたボールに手を伸ばした。 この拷問はまだ続くのかと思うと溜息が出るが、ぶっ倒れるまでやると言った以上、途中で投げ出す事は出来ない。 惨めな結果を示す得点ボードを睨みつけてから、比呂美も立ち上がり、センターサークルへ移動する。 格下の朋与が相手でも、やはりこの服装と上履きでは実力を出し切れないのは、嫌と言うほど分かったのだが…… (でも、眞一郎くんが来るまでに……必ず引っくり返してやる!) バスケで朋与に負けているところなんて、眞一郎には絶対見られたくない…… エースのプライドに賭けても。 ………… 自分自身に喝を入れるため、平手で頬をピシャリと叩く比呂美を、朋与はボールを弄びながら鼻で笑う。 「無駄よ。今日の比呂美はアタシには勝てない」 「! ……言ってくれるじゃない」 何度も偶然が続くわけ無い!と比呂美が吠え、低くディフェンス姿勢をとった時だった。 右を抜いてくると思われた朋与の身体が、比呂美の裏を掻いて左に振れる。 「クッ!!」 対応が遅れたのは服のせいではなかった。 脚を踏ん張って朋与の動きに追いつこうとした瞬間、股の中心にピリッとした痛みが奔り、気力と集中力を削ぐ。 またか、と内心で舌打ちした時にはもう遅く、鹿のような俊敏さで左へ抜けた朋与は、ゴール下に突入していた。 バッシュが鳴らす『キュッ』というスリップ音と共に、斜め後ろへジャンプする朋与。 そして! 「!!」 比呂美の十八番、フェイダウェイ・ジャンプシュートを、朋与は見事に決めてみせた。 悔しさで端麗な口をヘの字に曲げる比呂美に向かって、ニヤけた表情でボールを拾いながら朋与は言う。 「痛いでしょ? ……ア・ソ・コ……」 「!! な……な…………何を言い出すのよ!!」 ペンキでも被ったように真っ赤になった比呂美を、朋与は容赦なく言葉で突付き回した。 歩いていると、何だか棒が挟まったような感じがする…… 脚を開くと『乙女』があった所に激痛が奔る…… 処女を失った比呂美の状態を、朋与はズバズバと言い当てていき、そして最後にこう付け加えた。 「ケイとアキが教えてくれたのよ。『なんだか比呂美の動きが鈍い』ってね。ヒヒヒ」 チームメイトからのメールを読んで朋与は、こりゃ間違いないな、と確信したという。 ……つまりこの決闘は…………巧妙に仕組まれた朋与の罠だったのだ。 「ひ、卑怯よ!朋与!!」 「フフ……甘いわね、比呂美。アタシは勝つためには手段を選ばない女よ」 ニヤニヤといやらしいく口角を捻じ曲げたまま、朋与はボールを放って寄こした。 それを受け取りつつ、比呂美はへの字だった唇を尖らせて、赤い頬をプーっと膨らます。 比呂美らしくないその仕草を見て、挑戦的だった朋与の表情がフッと緩み、少し悲しげな笑顔に変わる。 「…………いいじゃん。……今日はアタシに勝たせてよ」 「………朋与……」 その解読が難しい笑みを目にして、比呂美は思った。 …………これもまた、朋与の気配りなのではないかと………… …………自分を打ち負かすことで、眞一郎を奪っていく罪を……心の重荷を減らそうとしているのではないかと…… ………… 「隙ありィ!!」 朋与の風のような一閃が、思索の海に潜った比呂美の手からボールを叩き落とす。 「ッ!! と、朋与!!」 比呂美から奪ったボールを操りながら、朋与は踊るようにコートを跳ね回った。 「待ちなさいッ!」と叫ぶ比呂美の声と、そこに駆けつけた眞一郎が発した「比呂美ッ!!」という絶叫。 その二つが混じり合うように体育館の壁を反響したのは、ほとんど同時だった。 (ありゃ? 随分と早かったな) ボール目掛けて喰らいついてくる比呂美を、蝶のように舞いながら翻弄しつつ、朋与は眞一郎を見遣った。 比呂美の携帯で眞一郎を呼び出してから、まだ十分と経ってはいない。 どうやって駆けつけたかは知らないが、眞一郎が乏しい体力を極限まで酷使したらしいことは、一目見れば分かる。 大きく肩で息をしている様子は、本当に気の毒なくらい疲れて見えた。 「待ちなさいっ、朋与ッ!!」 ところが比呂美の方はというと、頭に血が上っているのか、今は眞一郎よりボールが恋しいらしい。 (まったく、この娘は) やれやれ、という表情で追撃をかわすと、朋与はレイアップシュートを軽く決めて、勝負を一時打ち切った。 「チッ! も、もう一本よ!!」 「熱くなりすぎ。あれでも見て落ち着けば?」 親指を立てて、入口の方を指差してやる。 眞一郎は状況を理解して安心したのか、その場で膝をつき、脱力して倒れこんでいた。 「はぁ、はぁ、……お…お前ら…………はぁ、はぁ……」 そのまま仰向けに身体を転がし、大の字になってしまった眞一郎に、二人は駆け寄った。 「ちょっと、大丈夫? 比呂美、水よ水!」 「う、うん」 壁際に放置してあるペットボトルを比呂美に取りに行かせる。 眞一郎はまだ呼吸が整わない様子だったが、朋与は仁王立ちのままで、手を触れようとも助け起こそうともしなかった。 (それは私の役目じゃない) 心の内に自分でそう言い聞かせながら、朋与は比呂美を待つ。 すぐに駆け戻ってきた比呂美はしゃがみ込み、飲みかけのスポーツドリンクを差し出した。 「これ、飲んで」と言って手渡されたそれを一気に煽る眞一郎。 そして一呼吸おいてから、彼は怒りを発火させた。 「お前らっ!!ふざけるのもいい加減にしろよなっ!!!」 激しい雷を落としてから「心配させやがって」と愚痴る眞一郎を見て、比呂美はシュンとなってしまう。 だが、この程度の悪戯をする権利は、自分には充分あると思うので、謝ろうなどとは微塵も考えない。 「殴り合いでもしてると思った? んなわけないじゃん。ハハハハハハ」 快活に笑う朋与に呆れたのか、負けたと思ったのか、眞一郎はゆっくりと立ち上がた。 ハァと大きく溜息をついてから、「俺、帰るわ」と力なく言う眞一郎を、朋与は呼び止める。 「用があるから呼んだのよ。普通に声かけても来ないでしょ?」 そう告げて、今度は自分が壁際に置いてあるバッグに駆け寄り、中身を漁り出す朋与。 なんなんだ?と眞一郎と比呂美が顔を見合わせていると、朋与はきれいな包みを持って戻ってきた。 ……袋状の包装が施された一抱えほどの大きさの……一見してプレゼントと分かる…それは…… 「……それ、もしかして……」 眞一郎には一目で、その中身が分かったようだ。 その反応に満足し、口元をほころばせながら「うん」と頷いた朋与は、それを眞一郎の手に握らせる。 あの日、比呂美の手に渡ることなく、グシャグシャになってしまったプレゼント…… 朋与はそれを、市販の包装材で包み直すことで、眞一郎の真心を再生させていたのだ。 「渡してあげなよ。仲上君の気持ち」 「…………」 包みを握る眞一郎の指先に力がこもる。 華奢な肩も……少し震えているように見えた。 (感激しやすいんだから……もう……) でも、そんなところも……と考えかけたが、ダメだと自戒して、まだ振り切れない想いに朋与は蓋をした。 眞一郎の背中に回って、軽いタックルでその身体をを小突き、「早くしろ」と発破を掛けてやる。 その朋与の応援に頷いて、眞一郎は比呂美に向き直った。 「比呂美……これ……」 比呂美に向けて差し出される……あの時、渡せなかった『想い』。 ………… ……そして朋与は一歩後ろに下がって、向かい合う恋人たちから身を引いた…… ………… 「……私……それ、受け取る資格……ない……」 目線を斜め下に落として、比呂美は戸惑う。 当然だろう。 包装の中身はあの日、比呂美が雪と泥の中へと叩き落した『あれ』なのだから。 「お前が初めてアドバイスしてくれた絵本、あっただろ?」 「……うん」 眞一郎が初めて入選し、賞金を獲得した絵本には、どうやら比呂美の力が加わっていたらしい。 朋与にとっては初耳となる話だったが、今となっては嫉妬することもないし、端からする筋合いも無い。 むしろ、ちゃんと二人が『恋人』していたことが分かって、朋与は嬉しかった。 「あの本の賞金で買ったんだ。 ……お前のために買ったんだ」 眞一郎の腕がゆっくりと動き、朋与がそうした様に、比呂美の手にそれを握らせる。 「…………でも……」 この期に及んで、比呂美はまだ困惑の表情を朋与に向けてきた。 …………まるで許しを請うように………… (ホントに……) ……比呂美はバカだ。 頭は良いけど…バカだ。 眞一郎の気持ちを受け取るのに、何を遠慮することがあろうか。 それはこの世界でただ一人、『湯浅比呂美』だけに与えられた正当な権利なのだ。 ……胸を張って、堂々と行使すればいいのに…… (でもまぁ……そんなところも可愛いんだけどさ) 遠慮、躊躇い、戸惑い…… それが無くなってしまったら、それは比呂美ではない気がする。 その態度は他人の気持ちを思いやる優しさの裏返し…… 比呂美がそんな娘だと知っているから……自分は彼女の『親友』をやっている。 …………眞一郎を……愛した男を託すことが出来る………… ………… 朋与はクスリと笑ってから、助けと許しを求めている比呂美の望みに応えた。 「さっさとソレに履き替えな。まだボコられ足りないの?」 「!」 腰が引けていた比呂美の背筋がピンと伸び、視線が眞一郎の方に向く。 いいのかな?という比呂美の気持ちを受け止めてから、眞一郎は答えた。 「本人がいいって言ってるんだ。遠慮なく叩きのめせ!」 眞一郎がウインクをするのを合図に、比呂美の涙腺が崩れるのを、朋与は見た。 自分と眞一郎の贈り物を、まるで生まれたての赤ん坊のように、比呂美は大事そうに胸に抱える。 「……ありがとう……ありがとう…………」 抱きしめた物に顔を埋めるようにして呟かれた声は、嗚咽も混じって、とても聞き取りづらかった。 その比呂美の目の前で、どうしよう?と立ち尽くす眞一郎の背を、朋与はトンと軽く押してやる。 (ったく!決まってんでしょ!!) 振り返った眞一郎は、声を出さずに「バカ」と動いた朋与の唇を見て、何をするべきかを悟った様だった。 そして朋与は再び二人から離れ……恋人たちに背を向ける。 眞一郎が比呂美に近づく足音…… 柔らかく、優しく……比呂美を抱きしめる気配…… それは直接見なくても、朋与にはちゃんと感じることが出来た。 (……うん……それでいいのよ……) 顔をあげ、天井に……その向こうにある空に視線を向ける。 まだ微かに聞こえてくる、比呂美の「ありがとう」という声。 自分の目からも涙が零れるのではないかと、朋与は少し心配になったが、それは杞憂に終わった。 (そりゃそうか。もうこの二人の為に流す涙なんて、残ってないもんね) 身体中の水分が無くなるくらい…自分は泣き腫らしたのだ。 ……もう勘弁して欲しい…… ………… ………… しばらくすると比呂美は、眞一郎の腕の中に涙を置いてきたかのように、ケロリと泣き止んでしまった。 崩れてしまった自分を恥らうように、「履いてくるわ」とだけ告げ、体育館を後にする比呂美。 更衣室の方へ消えた彼女の背中を見て、朋与は思い出していた。 新しいバッシュを履く時に、比呂美はいつも楽器の調律をするように、入念に靴紐の調整をしている…… ………… 「フフ…… 次のゲームはしんどい事になりそうだわ」 「??」 呟いた独り言に眞一郎が振り向いたが、朋与は相手をすることなく、その場から離れた。 開放されている側面扉の脇に立ち、朋与は外を見遣った。 彼方に小さく『王様の城』が見え、その中の地べたが餌をついばんでいるのが、遠目にも良く分かる。 (私……ちゃんと出来た……よね?) その心の呟きは、地べたに向けられたものではなかった。 今は遙か遠くに暮らす『十五分だけの親友』が、朋与の内側にぼんやりと姿を現し、そして微笑みかけてくる。 「偉かったよ」と言ってくれる石動乃絵は、もちろん、自分が勝手に作り出した幻影でしかない。 バカだな、という自覚は充分にあるのだが…… それでも、朋与は乃絵に……石動乃絵にそう言ってもらいたい気分だった。 ………… 「なに、見てるんだ?」 入口に置き去りにしてきた眞一郎が、いつのまにか横に並び、朋与の視線の先に何があるのか捜そうとしている。 だが、朋与はその質問には答えなかった。 戸枠に手をついて外の光を見つめたまま、もう一つの用事を眞一郎に切り出す。 「私たち、もう話しするの止めようよ」 突然放たれた朋与の言葉に、眞一郎は声を詰まらせた。 …………朋与は、以前と変わらない友情を示してくれる………… …………全部終わって……また新しく『友達』としてやっていける………… 眞一郎はそんな風に、甘く考えていたのかもしれない。 「……なんでだよ…… そんな、話ししないなんて……」 明るい雰囲気だった朋与に安心しきっていた眞一郎は、冷水を浴びせられたように動揺している。 「……ケジメ…だからかな……」 男と女が別れるということ…… それはとても重たい出来事なのだ…… それを眞一郎に分からせるため、朋与は汗を吸ったバンダナを外し、『黒部』から『朋与』に変わって見せた。 寄せていた髪がハラリと落ち、悲しげな笑みが眞一郎に向けられる。 「…………」 朋与の『変身』を見て、喜びと戸惑いが浮かぶ眞一郎の表情…… それは朋与の奥にある燃え滓を僅かに震わせたが、決別を完全な物にする決意が揺らぐことはなかった。 ………… ………… 「もうこれっきり、仲上君とは話ししない。いいでしょ?」 朋与からの『サヨナラ』を真正面に受け止めた眞一郎は、凍結されたように固まっている。 しかし、それは短い……刹那の時間だった。 すぐに瞳の光を取り戻し、張り付いた氷を振り払うように動いた眞一郎の手が、朋与の右手を掴む。 「っ! な、なに?……」 いきなりの接触に驚く朋与を無視して、眞一郎はゆっくりと、少女の人差し指を自分の額の傷へと導いた。 そして指先を絆創膏の上にあてさせると、静かに目を閉じ、そして言葉を紡ぐ。 「傷……圧してくれないか?」 「……え…… な、なんで?」 いいからさ、と呟いて、それ以上教えてくれない眞一郎を朋与は訝しんだが、とりあえず言われた通りにしてみる。 軽く力を加えると、眞一郎は一瞬だけ痛みに眉を歪めたが、すぐに凪いだ海のような静かな表情を取り戻した。 「何なの……これ?」 「うん……『おまじない』……かな……」 前にもこういう風にされたことがあってさ……と呟きながら、眞一郎は自身の中で何かを租借している。 そして、噛み砕いた何かを、己の力にしているのが……傷に触れている指先から伝わってくる…… (…………そうか……) 朋与にはすぐに分かった。 以前にこうしたのは、きっと乃絵だ。 いつ、どこで、どんな時にそうしたかは分からないが……きっとそうに違いない…… ……確証はない。 でも……同じ経験をした女の勘が……間違いないと告げていた。 乃絵との繋がり、記憶は、間違いなく、今の眞一郎を形作る力になっている。 そして眞一郎は、それと同じことを……自分にも求めてくれた………… (……眞一郎の中に乃絵がいる…… そして……きっと私も……) 自分と友の記憶が、愛した男の力に……本当の愛を見つけ、育む力になっている確信を、朋与は得た。 それは、あの電車内で指を絡めた時に感じたモノとは、比較にならないほど強固な実感だった。 グリッと指先に捻りを加え、傷口を痛めつけながら、朋与は眞一郎を突き放すようにして圧し返す。 さすがに痛覚が我慢の限度を超えたのか、眞一郎は「痛っ!」と叫び声をあげた。 「『私たち』はもっと痛かったわよ。心にザックリ、深~い傷を負ったんだから」 「…………」 朋与は冗談めかして笑ったが、眞一郎はそれを真剣に受け止め、また固まってしまった。 でも、それでいいのだ、それが眞一郎なのだと、朋与は思う。 その真摯さ、相手の心の傷を、自分のものとして感じる感性は、眞一郎の一番の武器になる。 …………比呂美を守る……力になる………… …………それが…分かる………… ………… 「たっぷり苦しみなさい。 そして強くなるの…… 比呂美の為にね」 それは以前、情事の後のベッドで、朋与が眞一郎に送った言葉だった。 言いたい事を言い終わり、朋与はバンダナを付け直して『黒部』に戻ると、眞一郎に曇りの無い微笑みを向ける。 眞一郎は、再会できた『朋与』が消えたことに一抹の寂しさを見せたが、彼女を追いかける様な真似はしなかった。 「やっぱ厳しいな、『朋与』は…… でも……ありがとう……『黒部』……」 首を小さく右に傾げて、眞一郎も同じ様に透明な笑みを返してくる。 その仕草は朋与の想いをグッと締め付け、心を強く震わせた。 泣くもんか、と自分の魂に言い聞かせながら、朋与が目の前の……己のモノではない太陽を凝視した時……… ………… 「お待たせ!」 入口に現れた比呂美の張りのある声が、体育館の内壁に反響して朋与の耳に届く。 新しいバッシュを履き、どこで見つけたのか、輪ゴムで髪をポニーにまとめたその姿は、完全に戦闘体勢に入っていた。 不敵な顔でこちらを見つめ、フフッと笑みを零す比呂美。 その余裕に朋与は苦笑すると、ドリブルで接近してくるライバルに向かって駆け出していく。 ……だが…… 「あ、忘れてた!」 そう叫ぶと朋与は、何を思ったか途中でUターンして眞一郎の前に引き返してしまう。 ポケットから四つに折り畳んだ紙を取り出して、何事だと呆気に取られる眞一郎に、それを突きつける朋与。 「な、なにこれ?」 「請求書よ」 「はあ???」 眞一郎が紙片を拡げてみると、そこにはプレゼントの再梱包に掛かった必要経費がビッシリと書き込まれていた。 包装袋、リボン代は言うに及ばず、それを買いに行く時の電車代まで、会計にしっかりと計上されている。 中でも『技術料』は飛び抜けて高く、ボッタクリと罵っても問題ないのではないか、と眞一郎には思えた。 「……ちょ…これ…高くね??」 「支払いは比呂美を通してちょうだい。分割でもいいけど、お金は自分で稼ぐこと。いいわね?」 眞一郎の目の前で人差し指をチッチとチラつかせると、朋与は比呂美に向かって再び駆け出して行く。 「オイ!マジかよ~」 「マジよ! 割引は利かないからね!!」 眞一郎にきつく念を押すと、朋与は改めて比呂美に駆け寄り、そして対峙した。 「待たせたわね」 「朋与……今度は私がもらうわ。……悪いけど、二対一だしね」 そう言ってバッシュのつま先で床を蹴る比呂美は、憎らしくもあり、可愛らしくもある。 「よくもまぁ……ぬけぬけと言ってくれるわ、アタシに向かってさぁ」 隙を伺って姿勢を低く構える比呂美に対し、朋与は大きく両腕を拡げ、防御の体勢を取った。 ……ゴールを狙う牝豹と化す朋与と比呂美…… 闘いの高揚感が身を震わせ、二人の口角を吊り上げていく。 「…………いくよ……」 「フッ…………来い!」 比呂美の操るボールのバウンド音が、一際大きく場内に響き渡る。 背中の方から「比呂美!負けるなよ!」という声が聞こえたが、それはもう、朋与にはどうでもいいことだった。
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湯浅比呂美(6話その後) 「それ・・・何の冗談?」 (比呂美が義妹!?) 慎一郎には、比呂美の言葉がにわかには信じられない。 「それにしても・・・。」 (中庭にたたずむ比呂美の泣き顔・・・きれいだったな。) こんな状況で不謹慎かもしれない。でも、この数日慎一郎の頭の中は比呂美のことで一杯だった。 「俺、こんなんで比呂美のことあきらめられるのか?」 いくら一人で悩んでも答えはでそうにもない。 ○ママンを問いつめる。 302 ○パパンに相談してみる。 301 ○もう一度比呂美と話そう。 300 ○<あいちゃん>に行ってみる。 299 ○散歩に行く。 298 302 ○ママンを問いつめる 思い切って居間にいた母さんを問いつめた。 慎一郎は感情が高ぶってうまく話せない。 比呂美のこととなると険しい表情になる母さんが、今日に限って穏やかだ。 落ち着いて慎一郎の話を聞いてくれていた。 「そう・・・しんちゃんにも、話しておいた方が良さそうね。」 母さんは、捨てたはずの写真をとりだした。 94年に湯浅夫妻と撮った、比呂美の母親の顔が切り抜かれた、例の写真だ。 「比呂美の母さんとの間に何があったか知らないけど・・・。」 「違うの、違うのしんちゃん。この写真・・・見たんでしょ? …この切り抜きに写っていたの・・・父さんなの。」 (何を言ってるんだ、母さん?父さんなら右端に写っているじゃ・・・) 「しんちゃんの本当のお父さんは、あなたが小さい頃に亡くなってね。 母さん、仲上の家のために弟のヒロシさんと再婚したのよ。」 (へ?) 「その頃のヒロシさん、茶髪のロングヘアーで、こうゆう格好が趣味だったの。 湯浅さん、あの子のお父さんとヒロシさんは・・・つまり・・・そういう関係だったのね。 安心なさい。あの子、戸籍上は湯浅さんの養子で、当然、仲上家の血は引いてないわ。」 「じゃあ、どうして比呂美は妹だなんて・・・。」 「あれは、あの子が勝手に誤解しただけよ。」 『あなた、よくこの家にこれたわね。・・・教えて上げましょうか。 …あなたのお母さんは、しんちゃんのお父さんと同じ人なのよ。』 父さんを見る目が変わった。(もう、父さんって呼べないかも。) 昨年まで十数年間二重生活をおくっていた父さんも父さんだけど、 父さんの女装に気付かなかった比呂美も比呂美だよなあ。←【お前もな!】 それにしても、比呂美への誤解が解けたことが何よりうれしい。 妹じゃなかった!義妹じゃなかったんだ!! 比呂美はあのとき泣いていたんだ。(もしかして、比呂美も俺のこと好きなんじゃないのか?) 不思議と今なら飛べるような気がする。 だが、ここで一つの疑問がわき上がる。 (湯浅のおじさん、どうして養子は女の子にしたのだろう?男の子の方が好きそうだけど!?) 『私の方が誕生日遅いから・・・慎一郎君がお兄さん・・・。』 (そういえば、比呂美は自分のことを妹とは一言も言ってないよな・・・。) ………………………………………………………………………………………………orz 慎一郎の眠れぬ日々は続く。 兄弟end 301 ○パパンに相談 酒蔵に行って父さんを捜すが見つからない。 (そういえば今日は商工会の会議があったかもしれない。夜まで待つか。) 仕方なく、時間つぶしに<あいちゃん>に向かう。 店に入るなり、愛ちゃんに告白された。 「34吉とは別れたから・・・わたしとつきあって!」 親友を傷つけるようなまねはしたくない。愛ちゃんには悪いけど断って店を出ようとした。 と、背後から延髄に手刀をたたき込まれ、慎一郎は意識を失った。 「私を振ったらただじゃすまないわ。」 阿鼻叫喚。 「酷いよ、愛ちゃん!」 青ざめた表情の慎一郎は、よろめきながら外に出た。(今川焼き・・・怖い。) 尻を押さえ泣きながら家路についた。 もはや、ヒロシに相談するどころではなかった。 愛子end 300 ○もう一度比呂美と話そう 比呂美の部屋に向かう途中、廊下で丁稚と会った。 「最近、坊ちゃん元気ないですね。何か悩んでます?俺で良ければ相談乗りますよ。」 丁稚は心配そうに慎一郎を見つめている。 この際、相談相手は誰でも良かったのかもしれない。 「俺の・・・友達のはなしなんだけどさ・・・。」 慎一郎はこれまであったことをかいつまんで丁稚に話した。あくまでも友人の相談話だと強調して。 丁稚は真剣に慎一郎の話を聞いてくれている。時に涙を浮かべながら・・・。 自然、場所を慎一郎の部屋に移して長い長い話し合いが始まった。 翌朝、慎一郎は眠い眼をこすりながらベットから起きあがり・・・振り返る。 ベットのとなりで裸の丁稚が微笑んでいた。 「坊ちゃんのこと、これからは・・・兄貴って呼んでいいですか?」 慎一郎の答えは決まっていた。 13 13 名無しさん@ピンキー sage 2008/01/08(火) 10 14 12 ID h1Wql3b/ ばっちこーい 丁稚end 299 ○<あいちゃん>に行ってみる。 途中で、34吉と合った。 「こんなんじゃだめだ。もっと強力な武器が必要・・・ブツブツ。」 34吉の様子がいつもと違った。顔中あざだらけで痛々しい。 手には稲刈り用の鎌(刃先は折れて無くなっている)を持っている。 と、腹を押さえて道端でしゃがみ込んだ。 「何があったんだ?」 声をかけても反応がない。目の前の慎一郎に気付いてすらいない。 「そうだ、あれをつかえばきっと・・・。」 突然走り出す34吉を慎一郎は止められなかった。 数日後、34吉は失踪した。失恋の痛手を乗り越えて、いつか帰ってくることを慎一郎は願っている。 比呂美は2年後卒業と同時に仲上の家を出た。ギスギスした人間関係は、慎一郎には修復出来なかった。 慎一郎は、比呂美に笑顔を取り戻せないと知った時から絵本を書くことは止めてしまった。 乃絵は、飛べなくなった慎一郎に興味を失ったようだ。石動家は引っ越していった。 結局、愛ちゃんだけが慎一郎の側にいた。そして、愛ちゃんはいつも慎一郎にやさしかった。 愛子と結婚して1年後、両親が事故死した。 (俺がしっかり造り酒屋を盛り立てていかないと。愛子に楽をさせてやりたい。) 慎一郎は体調を崩して寝込みがちになった。過労のせいだろう。 (寝込むようになって、夢で34吉に合うことが多くなった気がする。) 「なあ、愛子はどうして何の取り柄もない俺なんかを選んだんだ?」 「あら、あなたの持っている物はとっても魅力的だわ。」 (夢で合う34吉の顔はいつも真っ赤だ。泣いているのか?) 「そういえば、前から気になっていたんだ。昔の店<あいちゃん>はどうやって手に入れ・・・。」 「さあ、お薬の時間よ。話はあとでゆっくりとね・・・。」 薬の後は決まって強烈な睡魔が襲ってくる。 愛子はいつも優しい。前向きに生きていけばきっと良いことがあるだろう。 (虫の知らせだろうか、そう遠くない日、34吉と再会出来るような気がする。) 34吉end 298 ○散歩に行く。 海に行ってみるか。 階段を下りたところで、自室に入る比呂美と目があった。 慎一郎は声をかけようとしたが、玄関で人の気配がする。(今はまずい。暫く待とう。) 自室に引き返した。 30分後、比呂美の部屋の前で屈伸する事数回。思い切って扉をノックした。 比呂美は着替え中だったようで、あたふたとあわてた様子で扉を開けてくれた。 いつもと同じセーター、いつもと同じジーンズ。 「話があるんだ。出来れば・・・2人だけで。」 この数日、言い出せなかった一言を、慎一郎は精一杯声を振り絞って言った。 比呂美は小さくうなずいた。 「入って。」 (この部屋に入るのは二度目か。) (何て話せばいいんだ?どう話せばおまえを傷つけずにすむんだろう?) (義妹である確証があるなら・・・きっぱり、あきらめよう・・・。) 比呂美の後についてドアを閉めながらそんなことを考えていた。 比呂美はゆっくりと同じ足取りで机に向かっていく。 途中で振り向いてこのまえと同じように机を背もたれにする? この前と同じように「何?」って聞いてくるのか? いつもと同じ口調、いつもと同じポーカーフェイスで。 ○振り向いた比呂美の唇を強引に奪う・・・ 297 ○気が付けば、後ろから比呂美を抱きしめていた。 296 297 ○振り向いた 振り向いた比呂美の唇を強引に奪おうとして・・・ 転んだ拍子に机の角で頭を打った。 君の冒険はここでおわる・・・。 地べたend 296 ○気が付けば 気が付けば、後ろから比呂美を抱きしめていた。 無防備な比呂美の背中から両手を回して抱きしめていた。 瞬間、比呂美がビクンと体を堅くした。 「あ、ごめん。」 あわてて慎一郎は比呂美から離れようとした。 比呂美は振り向きながら、慎一郎の腕の中から逃れようとする。 普段の比呂美なら腕を払って呪縛から逃れるのはたやすかっただろう。 不意打ちに驚いた比呂美が足をもつれさせ、二人はベットに倒れ込んだ。 倒れた拍子に慎一郎の頬と比呂美の唇が触れ合う。 「ご、ごめん。」 ちょうど、顔を寄せ合い抱き合うような格好のまま見つめ合っていた。互いの唇まで数センチ。 慎一郎の目の前に蠱惑的な美少女の唇がある。思わずつばを飲み込む。 「重いわ、早くどいて。」 比呂美は直ぐに顔をそむけ視線をはずした。口調も素っ気ない。 慎一郎は起きあがろうとして、つまづき、また転んだ。 「きゃっ。」 右手が比呂美の左胸をつかんでいた。予想外の事態に咄嗟に謝罪の言葉が出ない。 (気のせいか比呂美の雰囲気が普段と違う?) 比呂美は顔をそむけたままだが、横目でチラリと慎一郎の様子をうかがっている。 心なしか比呂美の頬が朱に染まっている。 (色っぽくて・・・綺麗だ。) 「あんっ!あんっ!」 慎一郎は無意識の内に比呂美の胸をもみしだいていた。 頭の中で何かがはじけた。 吸い寄せられるように唇を重ねていた。ほんの一時我を忘れて比呂美の唇をむさぼった。 一瞬の間、比呂美は激しく首を振り、口づけを拒んだ。 「やめて、慎一郎くん。・・・わたしたち・・・兄妹かもしれないのよ。」 (いまさら、後には引けない。おまえを他人に渡したくない。) 抵抗する比呂美を押さえつけ裸にした。白い肌が艶めかしい。 「おまえは義妹じゃない。義妹であるはずがない!!」 慎一郎は比呂美の乳房に吸い付くと、愛撫を続けた。 徐々に比呂美の抵抗が弱まってくる。 タイミングをみて挿入をはかるが、うまくいかない。 先端を陰唇にあてがうのさえ思いの外時間がかかった。 「いくよ!」 一気に刺し貫く。 その瞬間、比呂美はのけぞり声にならない悲鳴を上げた。 痛みに耐えるためか、比呂美の両手は慎一郎の背中に回されていた。 慎一郎は本能の命じるまま腰を振り続けていく。 慎一郎end・・・比呂美編へつづく
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呼んで字のごとくのお察し。 2010年4月28日の情事ソース 目撃者のコメント 2010年5月3日の続きソース おまけ(?) 更新情報 2010年4月28日の情事 ソース (シェリカを抱きしめている状態で) ナイフのスカイランナー・アシュレイ(c00061) 2010年04月28日 03時 眠れないなら、オレの部屋で駄弁りましょうか? 目撃者のコメント と、多数の前で大胆に部屋に連れ込んだアシュレイ がんばれアシュレイ そんな大胆なアシュレイをキヨカズールは応援しています。 (ちなみに部屋では、ナイフで遊んでいたようだ) ※「いいぞもっとやr(ry」と本人たち(?)にいわれたので、 PL宛てのネタとして記載しただけです。 なので、キャラであんまり煽らないでね(はぁと) 2010年5月3日の続き ソース 扇の魔曲使い・シェリカ(c00014) 2010年05月04日 02時 Σ言っとくけど何もなかったから!部屋で遊んでただけだから!うっかり一泊しただけだから! 【ブレイクアウト】鞭のデモニスタ・ヴィル(c01563) 2010年05月04日 02時 最後余計な一言だと思った、シェリカ ハンマーの魔獣戦士・アマラ(c01414) 2010年05月04日 02時 おー、だいたんはつぜんだなぁー!<部屋で遊んで一泊 【ブレイクアウト】槍の魔獣戦士・リュウヤ(c03523) 2010年05月04日 02時 うっかり朝帰りとかすげぇ・・・!! 扇の魔曲使い・シェリカ(c00014) 2010年05月04日 02時 Σのぉぉぉぉ!<余計な一言// 違うの違うのー!いや違わないんだけどそうじゃなくて 【ブレイクアウト】エアシューズの群竜士・キヨカズール(c01091) 2010年05月04日 02時 部屋で遊んでただけだから!うっかり一泊しただけだから!(きりっ 扇の魔曲使い・シェリカ(c00014) 2010年05月04日 02時 何か出たー! 扇の魔曲使い・シェリカ(c00014) 2010年05月04日 02時 (ちょっと思ったけどいくらキヨさんでも流石にこれを録音はしないわよね…) しっかり録音されてました。(制作はキヨカズール) http //kiyokazu81.com/voice/neta/dousei.mp3 おまけ(?) ページ登録時のウィキ関連単語 抱きしめて アシュレイ コメント 状態 情報 ブレイクアウト 更新 登録 wiki 深夜 更新情報 初回登録:キヨカズール(c01091) 最終更新:カルラ(c05026)
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ヴェネツィアの情事 ヴェネツィアの情事 (HQ comics ナ 3-3) 長崎真央子 著 ルーシー・ゴードン 原作 ジャンル パッションロマンス 原題 Veretti s Dark Vengeance 2012年4月1日発行 ハーレクインコミックス CM-410 ISBN 4-596-95410-7 備考 カテゴリ:ハーレクインコミックス/401-500 タグ: ルーシー・ゴードン 未評価 長崎真央子
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2009年1月20日(火) @投票所板 00 30 00~23 00 59 本戦 一回戦2組 出場9人 一人持ち票1票 2位まで二回戦進出 01組 02組 03組 04組 05組 06組 07組 08組 09組 10組 11組 12組 13組 14組 15組 16組 17組 18組 主な作品は作成者が勝手に選びました。 名前 主な作品 備考 予選組 順位 票数 植田佳奈 愛沢咲夜@ハヤテ、桃瀬くるみ@ぱにぽに 予選09組 8位 24票 矢島晶子 野原しんのすけ@クレしん 予選04組 3位 31票 岩男潤子 洞木ヒカリ@エヴァ、来栖川姉妹@To Heart 予選11組 7位 22票 矢作紗友里 瀬川泉@ハヤテ、グレーテル@赤ずきん 予選02組 9位 21票 水樹奈々 梨々=ハミルトン@吉永さん家のガーゴイル 予選07組 2位 39票 名塚佳織 光月未夢@だぁ!だぁ!だぁ!、湯浅比呂美@true tears 予選09組 3位 47票 松岡由貴 大阪@あずまんが、エヴァンジェリン@ネギま 予選03組 3位 34票 野川さくら 雛苺@ローゼン、江戸前留奈@瀬戸の花嫁 予選03組 7位 22票 坂本真綾 藤岡ハルヒ@ホスト部、神崎ひとみ@エスカフローネ 予選09組 4位 37票 .
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「トゥルー・ティアーズ・アフター ~ファースト・キス~」 true tears after ―the first kiss― ――『目次』―― はじめに 前作あらすじ 予告文 序幕 『大事な話があるの』(石動乃絵) 第一幕 『嫌われるかもね』(黒部朋与) 第二幕 『気をつけるのよ』(仲上理恵子) 第三幕 『キスの、呪いか?』(仲上眞一郎) 第四幕 『わたしを、おもちゃにしないで』(湯浅比呂美) 第五幕 『ちょっと用があって』(仲上眞一郎) 第六幕 『ひとりにしといてくれ』(仲上眞一郎) 第七幕 『やっぱり、こわいんだと思うの』(湯浅比呂美) 幕間 『ほら、ここにいるよ』(男の子) 第八幕 『勘違いしないで』(石動乃絵) 第九幕 『それだけでいいの』(安藤愛子) 第十幕 『邪魔されたくないときもある』(仲上眞一郎) 第十一幕『なにトキめいてんだろう』(湯浅比呂美) 第十二幕『そんなの関係ないよ……』(湯浅比呂美) 第十三幕『もっと、もっと、翼をひろげて』(石動乃絵) 第十四幕『最初に、見せたかったんだ』(仲上眞一郎) 第十五幕『お邪魔します』(湯浅比呂美) 終幕 『帰れなくなりそう……』(仲上眞一郎) あとがき ――『はじめに』―― ※※※ 18歳未満の方は、お読みにならないでください ※※※ このテキストファイルをWordに読み込み、フォントの大きさを12、A4サイズの用 紙を横にして、縦書き40文字×40行になるように設定すると文庫本感覚で読むことが できます。 ――『前作あらすじ』―― 「トゥルー・ティアーズ・アフター ~春雷~」 true tears after ―rumble in their hearts― 湯浅比呂美の誕生日は、まだ仲上家で祝われたことがなかった――それに、眞一郎の誕 生日も祝われなくなっていた――。比呂美の両親が亡くなってから、まだ二年と経ってい ない。比呂美の目には、『家族』というものがどのように映るのだろうか。 眞一郎が『飛ぶ』ことのできた麦端祭りから約二ヶ月。長い雪の季節はとっくに終わり、 桜の開花のピークも過ぎようとしていた頃のお話――。 眞一郎が乃絵との約束を果たした後、眞一郎と比呂美は交際をスタートさせたが、どこ かぎこちない関係のまま高校二年生になった。 ふたりの心には、『しこり』があったのだ。 そんなふたりの関係を見抜いた母・理恵子は、今年の眞一郎の誕生日を仲上家で祝うと 突然言い出した。ふたりきりで密やかに祝うつもりだったふたりは、残念な気持ちになっ たが、同時に理恵子の優しさを感じ、その提案に賛同した。 そして、四月十六日――眞一郎の十七歳の誕生日。 小さなデコレーション・ケーキが食卓に置かれた以外は、普段の夕食とあまり変わらな い質素なお誕生会だったが、理恵子の粋な計らいがふたりを待っていた。ケーキには、可 愛らしいローソクが三本だけ。その意味を理恵子から聞いたふたりは、心を震わした。 一つは、眞一郎の、十七歳のお祝い。 一つは、眞一郎の、十六歳のお祝い。 一つは、比呂美の、十六歳のお祝い。 つまり、去年のふたりの誕生日も一緒に祝おうということだった。 だが、比呂美が眞一郎へのプレゼントに「ある物」を忍ばせていたことで、仲上家に暗 雲が立ちこめることになった。 そのある物とは、比呂美が一人暮らしをしているアパートの『合鍵』で、すぐに理恵子 に見つかってしまったのだ。 母親としては、当然見過ごすことのできない比呂美の『行い』だった。心を鬼にする理 恵子。その心は空へ伝わり雷鳴を轟かせた。 この合鍵を巡って、眞一郎、比呂美、理恵子のそれぞれ思いが回り出した。 雷が激しく鳴る放課後。眞一郎と比呂美は、ふたりきりの体育館でフリースローゲーム をすることになったが、比呂美から伝えられたゲームのルールに眞一郎は眉をひそめた。 シュートが成功するごとに、『お願い』ができるというのだ。 比呂美の真意を量りかねながらも、そのゲームに挑む眞一郎。そして、眞一郎は、たっ た一つだけその権利を獲得した。 「戻ってこないか? 仲上家に」 眞一郎の『お願い』は、比呂美に仲上家へ帰ってきてほしいというものだったが、比呂 美は、それを固く拒否した。眞一郎は、困惑した。 比呂美にその理由を訊きたくても訊けない――そのことが、眞一郎の心の『しこり』だ った。 訊いてはいけないことを訊いてしまったと後悔の念に駆られた眞一郎は、比呂美にキス をしてその場をゴマカしたが、比呂美は、眞一郎が自分に対して無理をしていることを思 い知らされたのだった――キスを重ねても、いまひとつ眞一郎をそばに感じない。眞一郎 はまだ、石動乃絵に向けていたような笑顔を自分には見せてくれないと――。 そのゲームの後、ふたりは自分らの関係について省みて、これからのことを考えていた 矢先、理恵子に合鍵のことを問いただされた。 打ち解けていても肝心なところで口を閉ざしてしまう比呂美――理恵子の追及を受けた 比呂美は、泣き出してしまった。合鍵を渡して眞一郎を誘惑しようとしたことは、親とし て見過ごせない『行い』だったが、理恵子の本当の気がかりは、比呂美のそういうところ にあった。 しかし、ずっと「本音」を言えずに苦しんでいた比呂美の心の支えは眞一郎であること を、理恵子はすでに理解していた。同じように考えていた父・ヒロシも、ふたりの気持ち を信じ、ふたりの気が済むようにしようとしたが、比呂美は、理恵子たちの自分への愛情 に気付き、ヒロシに合鍵を預けるべきだったと反省した。 合鍵が収まるところに収まり、これで一見落着したようだったが、眞一郎と比呂美の心 の『しこり』はまだ残ったままだった。 比呂美を送るアパートへの帰り道、比呂美は、いまだに孤独感に苛まれ、悪夢を見るこ とがあると眞一郎に告白した。が、その恐怖に震える比呂美を何とか救い出したいという 気持ちが、眞一郎の心の底で眠っていた欲心に火を点けてしまった。 比呂美の部屋に入るなり、比呂美を押し倒す眞一郎。比呂美を傷つけない、と強く思っ てきた眞一郎は、その気持ちとは裏腹に比呂美の体を激しく求めたのだ。女なら普通、こ の乱暴な行為に恐怖するはずだが、比呂美は、眞一郎の本当の感情を見たいという思いか ら抵抗を止め、眞一郎に身を委ねた。 だが眞一郎のそれは、今までの抑制の『たが』が外れるという単なる若さゆえの暴走だ った。こんな形で体を繋げては、眞一郎との間に深い心の溝ができてしまうと思った比呂 美は、一転して必死に抵抗。眞一郎は、なんとか正気を取り戻したが、自分の暴走に恐怖 し、比呂美の誘いをほったらかしにして、その場から逃げてしまったのだ。 大切にしなくてはいけない存在を傷つけようとしたことに落ち込む眞一郎。 比呂美に対していつも優しく、一生懸命な眞一郎――そんな眞一郎に、自分に乱暴を働 いたことを許すと比呂美は言葉で伝えたが、眞一郎は立ち直りを見せないままそのことを 引きずった。早く断ち切らないといけないと思った比呂美は、自分の女としての欲望を曝 け出すことによって、眞一郎の目を開かせようと考えた。 そして、あの砂浜で対峙するふたり。 激しい口喧嘩の末、『比呂美を大切にする』意味を履き違えていた眞一郎は、比呂美に とって何が苦痛で、何が幸せと感じることなのかをようやくを知るのだった。 やっと心の呪縛を取り払われた眞一郎は、比呂美に面と向かって「裸が見たい」と男の 本心を口にした。その後、ふたりは、傷つけることを恐れずに気持ちをぶつけ合っていこ うと誓い、体を重ねた。 そして、比呂美は、仲上家で再び暮らすことを決断し、過去の悲しみの中にいた自分で はなく、今の自分を愛してもらうために、ずっと伸ばしていた髪を切った。 仲上家の食卓をまた四人で囲んだ。いつも無口な食事の時間でも、それぞれへの愛情は 確かにそこにあった。 新緑の五月。ふたりの笑顔が学校へつづく坂道を駆け上がるのを、透き通った青空が見 守っていた。 しかし、ふたりの本当の戦いは、このあと待ち受けていたのだった……。 ――『予告文』―― 愛子と眞一郎は「ファースト・キス」を隠したまま、 それぞれの恋愛模様を描き続けていた。 ある日、乃絵から呼び出された眞一郎は、 心揺さぶられる事実を知ることになる。 いずれ直面するはずの試練に、悶える眞一郎。 二人の居場所を侵されたと、苛立つ比呂美。 まだまだ大人になりきれない二人に、理恵子は…… 「あなた、カノジョ、失格よ」 今だからこそ、眞一郎は、比呂美にラブレターを出す。 「トゥルー・ティアーズ・アフター ~ファースト・キス~」 「春雷」続編。本編のその後を描いた、こころ温まる物語。 ……どうしても、最初に、見せたかったんだ…… ――序幕 『大事な話があるの』―― 「帰りに……眞一郎くんに会ったのよ。背が伸びていて、最初だれだかわかんなかった。 いつ以来かしら……」 母は、買い物袋から食材を取り出し、まるでおもちゃを片付けるみたいに冷蔵へ放り込 みながら楽しそうに話した。その姿を、比呂美は恋敵を見るような目で見下ろしていた。 「小学生の頃は、比呂美とあんまり背が変わんなかったけど……やっぱり男の子よねえ~ どんどん逞しくなってく……。母さんが、あなただったら、絶対、恋しちゃうな~。…… 顔の形は、お父さん似、目とか鼻とかは、理恵ちゃんに似。ああいう子って母性本能くす ぐられちゃうのよね、うふふふ……聞いてるの?」 そういって、母は、顔をくりっと比呂美に向けると、比呂美もくりっと顔を背けた。 「べつに、どうだっていい」 比呂美は、ぶっきらぼうに答えると、母は苦笑いした。 「まったく、かわいくないんだから」 顔を戻しながら呆れたようにいった母は、食材をしまい終えると立ち上がり、鍋に水を 入れて火にかけた。 それから、コーヒーを淹れだした。 「眞一郎くん、あなたのこと……なんていってたか聞きたくない?」 「え?」 母の突然の問いかけに、比呂美は、ひとつ大きく瞬きをした。母は、そんな比呂美の僅 かな反応を見逃さなかった。そして、上目遣いで比呂美を見て、取調室のベテラン刑事の ように、にやっと口元を動かした。 「べつに……」 「べつにっていうの止めなさい。癖になるわよ」 「…………」 比呂美は、むっとして黙りこくる。あまりにもふてくされた比呂美の態度に、母は少し 心配になった。 「あなたたち、学校じゃ話さないの?」 「ほとんど……」 「ふ~ん。……で、知りたくない?」 「話したいんでしょ?」と比呂美は、母に下駄を預けようとするが、 「べ~つに~。母さんは、どちらでもいいのよ~」 と、とぼけた口調で、母は『べつに攻撃』をやり返した。さらに、 「あんまし素直じゃないと、嫌われるぞぉ?」 とまるで他人事のようにふるまう比呂美に対して、女としての忠告をした。 「なにそれ。……お風呂、入る」 といって、むくれながら台所から立ち去ろうする比呂美に見兼ねた母は、比呂美をからか うのを止め、眞一郎からの言葉を伝えてあげた。 「バスケの試合、がんばれって、眞一郎くんが……」 比呂美は、おもむろに立ち止まった。立ち止まってしまったが、振り返れなかった。母 に自分の気持ちを見透かされてしまうと思い。 母は、まるでトンボでも捕まえるように静かに比呂美に近づき、比呂美を自分に向かせ た。背丈も同じ、髪の長さも同じ。向き合ったふたりの女性の違うところいえば……。 頬の赤みが違うだけ――。 そして母は、俯く比呂美の前髪をかき上げ、そのおでこに唇を押しつけた。 コーヒーの匂いと母の匂いに、比呂美の鼻と心は、くすぐられた。でもすぐに、比呂美 の中の恥ずかしさが反発心へと変わってしまう。 「もう、子供じゃないんだから……」 比呂美は首をひねり、母から離れようとしたが、母は、比呂美に諭すようにこういった。 「あなたは、一生、わたしたちの子供よ」 このときの比呂美には、この言葉の重みが、どれほどのものか分からない。 無情にも、この言葉の発せられた一ヵ月後、比呂美の両親は、冥路を辿ってしまった。 それから約二年の月日が流れようとしていた――。 ★六月十六日(月曜)くもり―― ――かつて、カレのとなりにいた女の子。 『……乃絵……』 その名前が、目の前の扉を突き抜け鼓膜を揺らしたとき、比呂美の全身は硬直した。 心臓の鼓動が、ムチを打たれたみたいに急に早くなり、周囲の音が一斉に、ドクッ、ド クッという音に置き換わる。 そして、聴覚が、過度の指向性を持ったようとぎすまされていく。 扉の向こうにいる、彼の口元に……向かって―― 比呂美は、いつものように眞一郎の部屋に向かっていた。 もう夜の十時を過ぎている。 風呂も済ませ、髪も乾かし、パジャマに着替えた比呂美は、できるだけ足音が響かない ように歩く。もちろん、夜遅いときはスリッパは使わない。 今まで何度も、眞一郎の部屋に行く途中で理恵子と遭遇することはあったが、特に理恵 子からとがめられることはなかった。なにかいわれても、早く寝なさい、という程度だっ た。それに物足りなさを感じた比呂美は、わざと背徳的な気持ちみたいなものを背負い込 んで、カレの部屋へおそるおそる向かうことに、ちょっとした快感を覚えつつあった。 ……夜這い、みたい…… まさしく、そんな気分だった。 眞一郎の部屋を訪ねるからといって、何か後ろめたいことをするわけではない。せいぜ い、短い時間のキスどまり……。 お互い別々の家に住んでいれば、それはそれで別の楽しみがあっただろうが、眞一郎と キスを重ねていくうちに、その短いキスをもっと味わい深いものにしようと考えたうちの 一つがそれだった。もちろん眞一郎と一緒に考えたわけではない。 それは、比呂美のささやかなお遊び、楽しみ――。 気分は夜這いだというのに、比呂美は、堂々と廊下を進んでいく。 外の方に目をやると、廊下のガラス戸に映る自分。 その姿に、今まで何度も、わたしバカだわ、と呟いたことがあった。しかし、その言葉 は比呂美の心にとどまらず、鏡の向こうの世界へ吸い込まれてゆき、『女』である自分を 再確認するのだった――この高揚感と共に。 やがて比呂美は、階段の手前で立ち止まる。視界には最後の難関、十五段ある階段がそ びえている。比呂美は、この階段のきしみ癖をすでに把握していた――何段目と何段目が きしみ音を発しやすく、体重を右端や左端にかけなければならない段があるというように。 そういったデータを再確認すると、心の中で数を唱えて、階段を上がりはじめた。 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十。 (よし、ここまで完璧) 十一、十二、十三。 ピシッ! 「あっ」 十三段目で音が鳴ってしまう。お腹の辺りが、ぱこぱこと笑いだす。比呂美は、必死に 笑いをこらえる。なにひとりで遊んでいるんだろう、と比呂美は自分で自分を罵るように して冷静さを取り戻そうとする。そして、息を止めて、どうにか気持ちを静めて……。 大きく深呼吸――。 十四、十五。二階へ到着。それから、Uターンして眞一郎の部屋へ一歩、二歩……。 あと三歩で到着というときに、眞一郎の部屋の中から、携帯電話の着信音が漏れてきた。 思わず立ち止まる比呂美。 (だれからだろう?) 一歩進み、首を少しひねり、右耳を扉へ近づける。 「はい」と眞一郎の声。 『……………………』 「え、乃絵……」 (いするぎ、のえ!) 『……………………』 「いいけど……なに? こんな時間に」 (眞一郎くんの、ふつうの声。あっ、盗み聞きよくない) 『……………………』 「あした、愛ちゃんの店?」 (愛ちゃん? 今、扉を開けて入らなきゃ。今なら、まだ) 『……………………』 「なんだよ、それ」 (少し怒ってる?) 『……………………』 「おまえ……」 (何か疑っているような声。あれ? 体が動かない、まずい) 『……………………』 「おれの……」 (少し驚き? 聞いちゃいけない) 『……………………』 「今だから?」 (さらに驚き? 聞いちゃいけない、もう、なんで体が動かないの? ……でも知りた い) 『……………………』 「別に……そんな心配……いいよ……」 (ん? なに言ったんだろう、聞き取れなかった) 『……………………』 「うん、わかった、八時な、じゃ」 (八時――夜八時に愛ちゃんの店で、会うってこと?) 『……………………』 (あぁ……電話終わったみたい……全部、聞いてしまった……) ……盗み聞いてしまった。どうしよう…… 比呂美は、口だけではぁはぁと息をし、なにかに怯えるように瞳を細かく振るわせた。 そして、口を真一文字に固く結び、眉間にぐっと力を入れる。そして祈るように…… ……眞一郎くん、ごめんなさい。 お願い、眞一郎くんから、このこと話してきて。 いつものように、話してくれるよね? おねがい…… こんな他力本願じゃいけないと分かっていても、比呂美に襲ってきていた『全身の支 配』というものは、それを上回っていた。それでもなんとか、比呂美は、すぐその現状を 打破しようと抵抗を諦めなかった。 前へ進もうと、進んで扉を開けようと、体に力を入れる。 だが、比呂美の体は一向に思い通りに動いてくれなかった。 前がダメなら、右、右がダメなら、左と試してみるが、まだ動かせない。押してもダメ なら引いてみろ、という言葉を思い出し、後退を試みる。 比呂美の左足は、自然とすっと下がった。 なぜ? と比呂美は、自分に疑問を機関銃のようにぶつけた。 そんな中、比呂美の右足も、すっと下がった。それが、今の自分から返ってきた答えだ った。 比呂美は、自分のこの体の反応の原因を、次々と言葉を当てはめていった。 良心、理性、責任感、罪悪感、恐怖、嫉妬、防衛本能、等々……。 どれもかすめているように思えた比呂美は、なにかに観念したように首をがくっと垂ら した。浮かれていた比呂美にとっては、この電話が、強烈に急所をついたような一撃に感 じられたのだった。やがて呼吸が苦しくなり、この場にいることが耐えられなくなる。 そして、比呂美の影は、眞一郎の部屋から徐々に離れていった―― ピルルルルル ピルルルルル ――画面に表示される11桁の番号。おそるおそる通話ボタンを押す。 「はい」と眞一郎は、かしこまって答えた。 『――いするぎのえです』 「え、乃絵……」 『――いま、話しても大丈夫?』 「いいけど……なに? こんな時間に」 『――あした、夜、愛子さんのお店に来てほしいの』 「あした、愛ちゃんの店?」 『――その方がいいと思って。返したいものがあって。それと、お話が……大事な話があ るの……』 「なんだよ、それ」 『――直接会って、話すわ』 「おまえ……」 『――あ、勘違いしないで、恋愛とかそういう話じゃないから。あなた自身の話』 「おれの……」 『――うん……。考えたんだけど、やっぱり、知っておいた方がいいと思って。……そう ね、今だから、知らなくてはいけない話……』 「今だから?」 『――そう……。あの、このことだけど……湯浅さんには知らせないでね。その方が、あ なたにとっていいと思うから。わたしを、信用して……』 「…………」 『――もし、湯浅さんと喧嘩になったら、わたし、ちゃんと説明するから。とにかく、湯 浅さんには、わたしと会うまでは伏せておいて。なにかあったらちゃんとするから、安心 して』 「別に……そんな心配……いいよ……」 『――それじゃあ、いいかしら?』 「ああ」 『――じゃあ、八時に、愛子さんのお店で』 「うん、わかった、八時な、じゃ」 『――じゃ』 眞一郎は、椅子に座ったまま、頭の後ろで手を組んで天井を見つめた。 「……なんだよ、あいつ……意味深なこといいやがって……」 6月中旬、乃絵からの突然の電話だった。 ……知らなくてはいけない話、ってなんだ? この夜、眞一郎と比呂美は、いつもの短いキスを交わさなかった。 ▼ファーストキス-1
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No シナリオ名 内容 227 昼下がりの情事 気だるい昼下がり、扉を開けるとそこには2人の男女の密会が行われていた。2人から口止め料として、アイテムを貰える。 ▼噂話 「事件の発覚というのは、ある日突然起きてしまうものだ。」 「好きになった相手に、良い所を見せようと思って、戦士になったんだ。動機は不純だけど、冒険してて楽しいから、良いよな?」 「君が世界の平和を目指すなら、僕は美の極致を目指すよ。まぁ、今でも美の申し子だけどね」 「他人に自分の家を荒らされる…これほど嫌なことはない」 ▼イベント発生 発生エリア:I、II、III、IV 発生レベル:6、11、16 民家で発生 ▼イベント詳細 1.民家に入ると勇者とラナンシーの密会現場に遭遇する。 口止めに『デリホケープ』を入手
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比呂美ENDエピローグSS 冬晴れの朝、並んで登校する二人。 一緒に歩いていることそのものを楽しむかのように、ゆっくりと。 「仲良くご登校ですか?お二人さん?」 からかう口調に二人が振り向くと、クラスメイトにして比呂美の親友、 朋与が声をかけてきた 「朋与っ。おはよー」「お、おはよう」 ぎこちないのは眞一郎、彼はまだ朋与との会話に慣れていない。 しかも、正視に堪えないほどのだらしない顔だ。比呂美は気にしていないよ うだが朋与はそちらを見ないようにする。 「はい、おはようさん。手まで繋いじゃって、おやおや」 半目での指摘に、今更のように気付いた二人が苦笑する。 「って、言われたら、フツーは手を離すもんじゃないの?」 絡めた指を解く気配の無い二人を見て、朋与はさらに、 「ま、気持ちはわからないでもないけど」 「・・・」「・・・」 比呂美から大まかな話は聞いているから咎める気にはならないが、この往来 でいくらなんでも、と考えてながら、 「コラッ!ついでに見つめ合うな!頬を染めるな!止まるな!」 繋いだ手を確認した後、自然に見つめあっていた二人を促して学校へ向かう。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 教室に入ると、待ち構えていたかのようなニヤニヤ笑いの歓迎を受けながら 鞄を自分の席に置いて座る。今度は咳払いの合唱が始まる。 仕方ないな、という表情で朋与が比呂美の席の前に座った後、 「まあ、みんな知っているけど、一応報告した方がいいよ?」 「えっ、な、何を?」 「手を繋いで仲良く登校したことかな?、とりあえずは」 「そ、それは…」 「それは?」 比呂美は先ほどまで感じていた温もりがよみがえり、自分の手を見つめてし まい朋与に答えるのを忘れそうになる。 「手の感触を思い出していないで、答えなさいな」 「えーっと。あの、その…」 「うんうん、なぁに?お姉ちゃんに教えてくれるのぉ?」 今度は一変して子供をあやすかのような猫なで声で先を促してくる。 比呂美がどう言ったものか考えているうちに自然と視線が眞一郎へ向かって いく、眞一郎の目は「おまかせします」と言っているようだ。 こういうことには全く頼りないなぁ、なんて思いながら比呂美は幸せを感じ、 意を決して口を開きかけた頃、一人の男子生徒が教室に入ってきた。 眞一郎の表情が凍りついたのを見て比呂美は誰なのかすぐにわかった。 教室の空気も変わっていて、ざわついた雰囲気はすでにない。 少しだけ目を細め、複雑な表情の三代吉は、眞一郎に向かって真っ直ぐに 歩いていく、そして近づいた途端飛びつきながら、 「やっとくっつきやがったな!この野郎!」 「うわわっ」 表情を崩してかつてのようにじゃれあいながら三代吉は、 「見てたぞ!手を繋いで登校とは一体どういう了見だよ!」 眞一郎の頭を抱え込みながら、さらに力を込めていく。 「痛い!痛い!痛い!」 それまでの緊張した空気が和らいだところで、朋与が声をかける。 「それを今、聞いていたところなのよね」 「眞一郎に聞いても、はっきりしないぞ」 「当たり前じゃない、そんな無駄なことしないわよ。比呂美に聞いてるの」 「痛い!痛い!痛いってば!」 「うるさいヤツだなぁ、このぐらい我慢しろっての」 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 比呂美はそんなやりとりを見て、心が落ち着いてきていた。 朋与に相談できない時期があった自分には、眞一郎と三代吉が前とは違っても 友達でいられるようになることがうれしいからだ。 自分のことで眞一郎に色んな負担をかけた。自分のことを真剣に考えてくれな がら、様々な面倒ごとを解決してくれた。 これからの眞一郎にはもっと周りの援護が必要になるだろう、だから友達に離 れてほしくなかった。自分の為に苦しんだ眞一郎から、その時の話を聞けば聞 くほどに今の状態がうれしいという気持ちが湧き上がっていく。 比呂美が考えているところになにやら相談していた朋与が声をかけてくる。 「じゃ、そういうことで決まりね」 「えっ?何が?」 「昼休みの話」 「いつものところで食べるの?」 「違う違う、報告会というか査問会?裁判でもいいわよ」 「どういうこと?」 「しばらくの間クラスをピリピリさせていた原因の追求と今後の対応、かな?」 「な、なんとなくわかったけど、今後の対応って?」 「夫婦がクラスにいるっているのは、みんな始めてなのよ?わかる?」 朋与の情け容赦ないからかいに、比呂美はあっという間に余裕をなくす。 「!!!」 耳まで真っ赤になって硬直する比呂美。全ての思考が停止し、心拍数が上がっ ていく。まだそこまで考えていなかったから、思わぬ言葉に喜んでしまった。 眞一郎の顔を思い浮かべ、さらに鼓動がはやまる。 「えーとね、みんなどこまでからかっていいのか、まだわかんなくて」 「というか、聞きたいし」「そーそー、当然話してくれるよね?」 次々に話しかけてくるクラスメイトの声も耳に届かない比呂美は、真っ赤な顔 を俯かせたまま座っているだけで精一杯。 眞一郎は三代吉からやっと開放されて、ばったりと机に突っ伏している。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 比呂美はふと気がついた。 "あのこと"があったのは、昨日の夕方から夜にかけてだ。なのに、もうみんな 知っている。そういえば登校中に多くの視線とざわめいた感じがあったかもし れない。 今更ながらに仲上という家についてを思い知った感じだ。自分たちは目立つ、 好むと好まざるとに関わらず、だ。眞一郎が思い切った行動に出ることができ ない、というのを歯がゆく思い怒りを覚えることすらあった。でも、今朝眞一 郎の隣を歩いてわかったことがある。家をかなり離れないと眞一郎が緊張を解 かないのだ。今まで彼がたった一人で抱えていたことのほんの一端に触れただ けだが、仲上のというのはそういうもの、少しだけ覚悟しておく必要があるよ うだ。 家から出て、しばらくしてから手を繋いだ時に見せてくれた眞一郎の笑顔は、 そんな彼にとって自分を必要としてくれているようで、うれしい。 もう、只の同居人ではない、ことに気付くとまた鼓動が高鳴っていく… 「おーい、次は移動だよー。おーい」 「あ、うん。行こっか」 朋与たちと歩きながら、今度はクラスメイトの楽しげな会話が聞こえる。 「私、何を聞こうかなー」「なんだかどきどきしてきちゃった」 「どの辺までいいのかなー」「うーん、どうしよう?」 「そりゃー、あーんなことやこーんなことまで、でしょう?げへへ」 「そっち方面はみんな止まんないよ?」「やめんかい!」「えー?」 「ちょっとー、1コづつだよっ」「えー、詳細に掘り下げたいのにぃ」 「そんなんじゃ朝までかかるって」「ごはん食べる時間、あるかな?」 どうやら昼休みの査問会のことらしい、比呂美にとっては聞かれてうれしくな いわけじゃなくて、うれしいというか、うれしい。 眞一郎くんはどう思っているのかな、比呂美が考えているところに、朋与に影 響されたクラスメイトの発言が聞こえてきた。 「旦那さんも同席?」 えっ!?、だ、だ、旦那さん?誰って、眞一郎くんのこと?、比呂美はクラス メイトたちの暴走ぶりにちょっとだけ不安を覚えるが、 「役立たずには黙っていてもらお。というか、今回はいらないっしょ?」 朋与の言葉に先ほどの仲上についての考えが浮かんでくる、ただ仲上だけで期 待される、その言葉からくるものがわかった気がする。 自分にはまだ無理なことだから、そこは眞一郎くんに甘えよう、今まで想像し なかった考えに、またうれしさが心に広がっていく。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「そ、それは、わ、私が、眞一郎くんを好きだから、です」 「へー」「うんうん」「わーお」「なぁ~んだ、やっぱりね」「ほほぉ」 比呂美にとって、とても長い昼休み。 教室には女子だけとなり、いつの間にかバスケ部の先輩やら大勢に囲まれての 査問会と称する、質問攻めである。 回答は全て「湯浅比呂美は、仲上眞一郎が好き」しか許されないようなものし かなく、声が小さいときは言い直させられる。 面と向かって声に出して「眞一郎くんが好き」はまだ1回しか言っていない。 しかし、何度も何度も答える間に、ある変化が比呂美の中に現れていた。 まるで心にある何かつっかえていたもの、傷のようなものが癒されていく感覚。 封印していればいいと自分に言い聞かせていたもの、大切な何か。 それらが、みんなの質問に答えることで別の何かに変わっていく感覚。 自分の行いが間違っていたとか、そういう考えでは得ることができないような 感覚を心の中に感じ、次第ににこやかな笑顔になっていく、質問に答えていく 度に、朋与たちに感謝しながら。 全てが癒されるわけではないが、ちょっと軽くなった気がした。 心配や迷惑をかけたはずなのに謝罪の言葉が浮かんでこなかった、不思議な質 問攻めを覚えておこう。 ちなみに朋与の質問の一つはこれである。 「そういえばさー、比呂美と部活帰りに新しいコート買いに行ったじゃない? あの日は仲上君のことどう思ってた?」 比呂美はコートと質問の関連性に疑問をもちながら、決められた回答をした 昼休み終了間際に帰ってきた眞一郎は、比呂美がちょっと思い出したくないく らいの姿だった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 下校時、夕暮れの坂道を並んで歩く二人。 「なんか一日が長かったね」 「あ、うん。大変だった」 眞一郎はまだ少し疲れている顔をしているが、うっすらと笑っている。 比呂美もつられて笑顔になりながら、首をかしげて顔を覗き込むように尋ねて みることにする。 「いいことでもあったの?大変だったのに?」 「え?大変だったけど、うれしかった」 「うれしかった?」 「そう、みんなに迷惑かけたような気がしてたんだけど、大騒ぎしている内に ありがとうって感じがした。よくわかんない」 比呂美はびっくりした、昼休みに自分と同じようなことを眞一郎も感じていた からだ。そこで、気付いたことがある。この人は自分と気持ちを分かち合うこ とができる人なんだ、と。だから、何があっても想い続けることができたんだ、 と。でも、ちょっと意地悪な気分になってくる。 いくら自分と気持ちを分かち合うことができても、愛情表現とかにはさっぱり なのだ。贅沢なのかもしれないが、やはり気付いて、よろこんでほしい。 何かいたずらでもしちゃおうかな?なんて考えていると、眞一郎が聞いてくる 「ん?どうしたの?」 「うん、私も昼休みうれしかったよ。質問攻めで大変だったけど」 何気ない会話、普通に思ったこと感じたことをそのまま言葉にした会話。 「どんな質問だったかは、聞かないほうがいいかな?」 「聞きたい?」 短いやりとりで言いたいことが伝わっていく。 「なんだか怖そうだから、やっぱりいいや」 「ふふっ、今日のことは絵本にできる?」 通じている、それが何よりうれしい。 「格闘技系の絵本って、あったかなぁ」 「・・・」 眞一郎くん、面白いな。 手を繋いで仲良く歩く。ゆっくりと、確かめるように。 比呂美は、一緒にいること、近くにいること、気持ちが通じることをかみしめ るように歩く、眞一郎と共に。 END 次回 比呂美ENDエピローグSS外伝「何?このエプロン」
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[古傷] 卒業を控えたある日、比呂美はあの鶏小屋に立ち寄った。 そこは2年前、雨降ってどころか暴風雨の末に地が固まった一連の事件。そのす べての始まりの場所である。 結果的には縁結びの思い出であろう場所。だが、足はそこを避け、遠のいていた。 回顧以前に、いまだに残る苦いものがある。それは小さなトゲだった。 あれ以来、眞一郎・比呂美と、石動乃絵とは、冷えた関係を保っていた。 お互いに挨拶もしない。何か学校の用があれば、面識のない生徒と同じように接 する。必要以上の会話はない。あれほどの交流があったにしては、不自然すぎる対 応だった。 比呂美にとっては、どこかいまだに安心できない相手なのだ。眞一郎争奪戦に勝 利したとはいえ、どこか苦手意識が残っている事を、彼女は自覚していた。 自分だけでなく、眞一郎までそうする理由は、比呂美にはわからない。それがケ ジメだと思っているのか、それとも比呂美に遠慮しているのか…。 いずれにしても、冷え過ぎた関係は逆にお互いを意識させ、面と話す事が簡単に はできない状況を作り上げていた。それは乃絵の側でも同じで、乃絵も眞一郎や比 呂美に話しかける事ができずにいたのだ。 要するに、気まずかったのである。2年経った今でも。 鶏小屋は思い出の土地であり、想いの墓地でもある。 比呂美の足が遠のいたこの2年で、壊れた扉は完全に修理され、雷轟丸の墓はい つのまにかなくなっていた。 変わる景色、変わらない景色。比呂美はいまだ一羽のままである”地べた”を懐 かしそうにしばらく見やり、心の中で様々な記憶を走らせてゆく。 (石動乃絵…) 思えば不思議な少女だった。その少女が起こした悪意のない波紋が、次々に反射 して、自分の周囲の全てを揺らしていったのだ。 「湯浅比呂美…?」 忘れるべくもない声。今こそ聞きたかった声。やはり聞きたくなかった声。 その声の持ち主が、比呂美の背後に立っていた。 意外とは思わなかった。ここに来れば会える気がしていたのだ。 一瞬だけ甦る、眞一郎を奪われそうになった頃の恐怖。それを振り払って比呂美 は微笑みを浮かべ、振り返った。 「石動乃絵さん」 逃げる必要はない。怯える必要もない。正面から向き合おう。そのために来たの だから。 「2年ぶりね」 乃絵らしい言い方だ。顔を見かける事は多いし、何らかの都合で言葉を交わした 事も何度かある。それでも乃絵にとっては2年ぶりなのだ。 「ふふ、そうかも」 奇妙な乃絵のこだわりが抜けていない事に、逆に比呂美は少し安堵を覚え、ちょ っと笑って応える。 彼女は最大のライバルだった。そのライバルが変わらずに居てくれた事が、どこ か嬉しかったのだ。 「あなたが地べたと一緒にいるのが見えたから、来たの」 「私も、ここに来れば石動さんに会えるかもしれないって。そう思って」 会話が止まる。凍り付いた2年を解凍するための時間を、二人は必要としていた。 「あの…」 「湯浅比呂美。あなたの背中に翼が見えるわ」 また、乃絵語。 乃絵自身も驚いていた。最近はこんな話し方はほとんどしないのに。比呂美と二 人きりになって、どこかあの頃に戻ってしまったのが、乃絵もなぜか嬉しい。 「ありがとう。石動さんも、雰囲気変わったね。いつ見ても友達いっぱいで」 そうね、と乃絵は笑う。さすがに少し苦笑めいた影が漂わない事もない。慣れは したとはいえ、人付き合いが厄介だと思う事は少なくなかったから。 「純がね」 「え?」 「あなたの事、褒めてた。すごい女だって」 「そう…かな…」 意外な話の流れに、比呂美は少し戸惑う。 「純の事、どう思ってた?」 そしていきなり。比呂美は主導権を奪われ、目を白黒させていた。 「どうって…。嫌いじゃなかったけれど…」 付き合っておいて、嫌いじゃないはないものだが、比呂美がかつて言ったように あれは恋愛ごっこでしかなかった。比呂美と純の双方に大きな反省と影響を与えは したものの。 「うん」 「あの時は、沢山の人に迷惑かけたから。お兄さんにも悪かったなって」 「…なんで?」 乃絵は比呂美の心に問いかけた。 比呂美は少しだけ迷い、やがてキッパリと言った。 「やっぱり、本当に好きな人以外とつきあうのは、相手にも自分にも良くない事だ と思うから」 それが偽りのない、比呂美の本音。彼女の気持ちの中に4番はほとんど残る事は なかったのだ。 そうね、と乃絵。 4番の方は逆に、比呂美と別れた後、比呂美に複雑な感情を抱いていた。その事 を乃絵は知っている。だが、これで良いのだ。お互いのために。 そして、真剣な眼で、正面から比呂美を見つめて乃絵は言った。 「私、あなたに謝りに来たの」 「え?」 口を軽く開け、表情を止めて、比呂美はまばたきした。 「迷惑かけたのは、私の方だわ」 謝るより、断言しているように聞こえる。不思議な乃絵の言い方。 「今の私なら、あなたと眞一郎の間に割り込む事はしなかった。だから、ごめんな さい」 乃絵は勢いよく頭を下げた。 「え…。でも」 「あの頃の私は、何も見えていなかったから。それと…」 「うん」 下げた頭を上げると、再び比呂美の瞳を見つめる。 「純のしたことも謝る。純は、あなたと眞一郎が惹かれあってる事に気が付いてい た。それなのに私と眞一郎をくっつけるために、眞一郎からあなたを遠ざけようと したの」 「うん…。わかってる」 「純は、謝りたかったみたい。でも、純が謝るわけにはいかない。だから私が謝る。 ごめんなさい」 乃絵は、自分の謝罪の時よりもきちんと頭を下げた。 「もういいよ、私もいっぱい迷惑かけたから」 「ほんとに?」 「うん…。私も色々無理言って、事故まで起こさせて。それにお兄さんにずいぶん 厳しい事を言ったし」 乃絵はその言葉に安堵の表情を見せる。兄が許されたのは純粋に嬉しかった。 「純はね、その言葉のおかげで、新しい道が開けたって」 細かい事は言わない。さすがにデリケートな話だから。だが、比呂美の言った事、 乃絵の言わんとする事、それはお互いに理解していた。 「そう…。だったら良かったのかな」 「私達は、あのままじゃいけなかったから」 うん、と曖昧に言う比呂美。他人には肯定も否定もできない事。だが、4番は自 分の道を捜し出す事ができたのだろう。 「お兄さんに伝えて。迷惑かけてすみませんでした、って」 「わかったわ」 「あの…。石動さん」 少しだけ気後れが顔を出す。勇気が試された。 「何?」 「ごめんなさい」 今度は比呂美が頭を下げた。 「なんで?」 不思議がる乃絵。乃絵にとって、比呂美に話そうと思っていた事は話し終えてい たから。謝るために来たのであって、謝られる事は想像していなかった。 「謝っていい立場じゃないけど。私、眞一郎く…眞一郎は、誰にも譲らないけど。 でも。石動さんを傷つけたこと。ごめんなさい」 優しい人だ、と乃絵は初めて思った。 驕りではない。眞一郎との想いを遂げる事で、乃絵を深く傷つけた事。その罪悪 感が2年たっても比呂美に残ってきたのは、事実なのだろう。 「あれから、私ね。彼氏できた」 しばらくして、乃絵が言った。 「え?」 比呂美が頭を上げた時、乃絵は比呂美に背を向けていた。少し頭を上げ、遠くの 空を見つめているようだった。 「この前、別れたけど。でもまた、恋人はできる。必ず」 「そう…」 「あの頃ね…。私が本当に恋を知ったのは、眞一郎と別れてからだと思う。全部終 わってから、眞一郎に本気で恋していた事を知ったの」 「…。」 「眞一郎に伝えておいて。私は涙を取り戻したって。それと、心配いらないって。 今の私は人を愛する事ができるから」 「うん…。伝える」 「眞一郎と、それと湯浅比呂美。あなたのおかげよ。あなたの涙、今でも覚えてる」 麦端祭りの日、眞一郎を想う気持ちをストレートにぶつけてきた比呂美。 なりふり構わない姿は、醜く、そして美しかった。その姿に心を揺さぶられ、乃 絵は自分の眞一郎への想いが、比呂美のそれには及ばない事を悟ったのだ。 「…卒業したらどうするの?」 背をむけたまま、乃絵は聞いた。 「一緒に上京して、進学します」眞一郎と、二人で。 「そう…。頑張って」 乃絵は振り向こうとはしなかった。 泣いているのかもしれない、と比呂美は思った。 「石動さん…」 「なに?」 「ありがとうございました」 眞一郎は、渡り廊下から、二人の少女が話している様を遠めに見ていた。 話が終わったらしく、髪の長い少女が踵を返してこちらに歩いてくる。最初うつ むいて歩いていた彼女は、やがて顔を上げ、愛しい男の姿を見つけて小走りに近寄 ってきた。 「眞一郎くん」 「比呂美…」 手を伸ばし、比呂美の頬に指を添えて、涙を拭いとってやる。 「あ…」 自分が泣いていた事に気がついていなかったのだろう。比呂美が頬を染める。 「乃絵と話してたんだな」 「うん。終わらせてきた…。預かった言葉もあるけど」 「そうか…」 眞一郎は待っていた。比呂美が乃絵と、乃絵が比呂美と話せるようになる日を。 「石動さん、まだいるから。眞一郎くんが直に話してきた方がいいと思う」 「いいのか?」 「キスしてくれたら」 比呂美はいたずらそうに笑う。 眞一郎はちょっと赤面して(何せ学校の渡り廊下である)、それでも比呂美の 肩抱きよせ、軽くキスをした。 「行ってくる。ところで、今晩のおかずは?」 「し、シチュー」 「ご馳走になりにいく」 「うん、待ってる…」 比呂美は微笑み、男の背中を見送った。その顔には、もはや何の心配も浮かん ではいなかった。 普段、校内では可能な限りイチャつかないように、注意していた二人。複数の 目撃者がいる中でのこのやりとりが多少の物議をかもしたのは、また別のお話で ある。 了 乱文を読んでいただき、ありがとうございました。 乃絵と比呂美の和解を見たいな、と思って書いてしまいました。 和解はして、お互いの最後の傷に決着をつけ、友人にはならずに別の道を行く。 そんな感じになりました。